投稿日:2012年01月26日
最終更新日:2012年08月10日
寄稿コラム:アルカカットさん「ハウズ・カース・ヴィレッジへの想い」
ハウズ・カース・ヴィレッジのスケッチ(2001年9月4日)。これでインディアより転載。
TeamDFM: 「Body Friendly」を出店されるアルカカットさんから「ハウズ・カース・ヴィレッジへの想い」というタイトルで、ご寄稿いただきました。
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「これでインディア」のアルカカットがフリーマーケットに店を出すとのツイートが主催者によって流れてしまい、一体あの商売っ気のなさそうな人が何を売るのかと疑問に思われた方もいるかもしれません。インド系アイテムながらインドでは普通のルートでは手に入らず、友人のツテで手に入れて愛用している品物なんかを、この際いくつかデリー在住日本人にご覧になっていただき、売れ行きを見てみようかと思い立っただけなので、そのくらいの逸脱は許していただきたいと思います。さて、フリーマーケットの会場となっているハウズ・カース・ヴィレッジは、個人的には思い出深い地域です。かつて、ディア・パークを挟んだ北側にある住宅街サフダルジャング・エンクレイヴに住んでいたことがあり、散歩がてらここにはよく来たものでした。過去10年間ぐらいの変遷は折に触れて見て来たことになります。
デリーの行政用語でハウズ・カース・ヴィレッジは「アーバン・ヴィレッジ(都市内農村)」や「ラールドーラー(赤線)地帯」と呼ばれる地区に分類されます。1947年の独立直後のデリーの光景は、オールドデリー(レッド・フォートやジャーマー・マスジドがある辺り)とニューデリー(大統領官邸~インド門の周辺エリア)以外は広大な農地が広がり、中世の遺跡や農村が点在する牧歌的なものでした。しかし、デリーにはパキスタンから大量の難民が流入しており、彼らが生活するための住宅地やマーケットの建設が急務となりました。都市はニューデリーを中心として同心円上に拡大して行きました。農地は買い上げられて住宅地(コロニー)となり、農村はコロニーとコロニーの中に埋もれて行きました。都市に呑み込まれたこれらの農村が現在で言うアーバン・ヴィレッジです。
アーバン・ヴィレッジは基本的に「住宅地」とされていますが、その歴史を尊重し、他のエリアに比べて法の適用が甘く、長年治外法権的な扱いとなって違法建築や違法産業などが見過ごされて来ました。都市計画上の理想と現実のギャップを埋める役割をこのアーバン・ヴィレッジが果たしており、低所得者層の住居、中小産業の職場や工場、正規商店街に出店するのに適さない商店やショールームを構えるスペースなどを提供して来ました。
現在の視点からデリーの街並みを眺めると、整然とした住宅街の間に何だか混沌とした汚いスラムが密生しているように見えますが、多くの場合、それらの「スラム」の方が圧倒的に歴史が古く、コロニーが建っている土地の元々のオーナーが住む場所だったのです。もっとも、中世の貯水湖の畔に広がるハウズ・カース・ヴィレッジは運良く四方を公園に囲まれる形となり、コロニーに埋もれることはありませんでした。
ハウズ・カース・ヴィレッジは、デリーのアーバン・ヴィレッジの中でも「ファッション・ハブ」としてアイデンティティ確立に成功した代表的な村です。それを主導したのがデザイナーかつデリー社交界の重鎮ビーナー・ラマーニー。1990年代初めに彼女はそれまで何の変哲もない都市内農村だったハウズ・カース・ヴィレッジにブティックを開き、他のデザイナーやアーティストたちにも声を掛けました。ローヒト・バルやJJバラーヤーなど多くのデザイナーたちがそれに応じてブティックを開きました。近くに国立服飾技術学校(National Institute of Fashion Technology)があったことも功を奏したと言えるでしょう。多くのギャラリーもオープンしました。やがてハウズ・カース・ヴィレッジはブティックやギャラリーがひしめくユニークな村として有名となりました。ファッションやアートだけでなく、レストランやその他の店も充実し、デリーのセレブが集う代表的なオシャレ・スポットに様変わりしたのです。デリー最初のナイトクラブが出来たのもこのハウズ・カース・ヴィレッジでした。これは全てモール文化がデリーを席巻する前の話です。
1999年にデリー最初のショッピングモール、アンサル・プラザがオープンしました。それを皮切りとして、グルガーオンやノイダなどデリー近郊からモールの乱立が始まりました。アンサル・プラザ以降しばらくモールの波に乗り遅れていたデリーですが、サーケートやヴァサント・クンジなどに大規模なモール・コンプレックスがオープンし、本格的にモール文化がデリーの中産階級以上の市民に浸透し始めました。それに伴い、商業の中心や流行の最先端は、マーケットからモールへと劇的に移行しました。
また、2005-06年にはデモリッション&シーリングの嵐が吹き荒れました。最高裁判所がデリー市内の違法建築・商売取り締まりを行政に厳命し、今までコネや賄賂でなあなあにされて来た違法な建築、店舗、事務所などが次々と破壊され封鎖されました。ハウズ・カース・ヴィレッジもこのデモリッション&シーリングの被害に遭ったエリアでした。アーバン・ヴィレッジとして今まで曖昧にされて来た行為が突然違法とされた上、ここは遺跡のすぐそばに立地していることもあり、法律的にはさらに不利な場所となりました。保護遺跡に隣接する地域での建設やその他の活動は規制されており、当局からの特別な許可が必要とされているのです。当然、元々法律的にグレーな地域であり、村内にそのような許可を取得している人はほとんどいませんでした。デモリッション&シーリングにより、ファッション、アート、グルメなどの中心地として賑わっていたこのユニークな都市内農村は、一夜の内に一網打尽にされてしまいました。
流行の発信源がモールに移ったこと、そしてデモリッション&シーリングによって店舗が強制的に閉め出されたことなどから、ハウズ・カース・ヴィレッジは一旦かつての栄華を失うことになりました。
ところが、皆さんご存じのように、最近俄にハウズ・カース・ヴィレッジに活気が戻って来ています。オシャレなブティック、レストラン、カフェ、雑貨屋などが次々にオープンしており、訪れるたびに新たな発見があるエキサイティングなエリアとなっています。どうやらこれは、デリー市民の間にモール文化が浸透し切ったことで、今度は逆にモール文化に対する疑念や反感が芽生え、その答えとしてハウズ・カース・ヴィレッジが再発見されたと言えそうです。モールではデザイナーたちは各モールの雰囲気をある程度尊重しなければならず、自由に商売ができません。また、賃料も法外に高く、駆け出しのデザイナーにとっては手が出ません。そして何より、画一的なモールではなく、ハウズ・カース・ヴィレッジのように現代と中世が出会うユニークな空間で自由にクリエイティヴな実験が出来ることが、才気あるインド人、NRI(在外インド人)、そしてインド好き外国人たちを引き寄せているようです。また、懸念のデモリッション&シーリングも小康状態となっており、それも影響していると言えます。一応2014年まで休止とされているので、少なくともそのときまではまた繁栄の時代が続くでしょう。
デリーフリーマーケットはこのような場所で開催されます。日本人会夏祭りや日本人会さくら会ボランティアサークルのチャリティー・バザーなど、似たようなイベントはありますが、企業と個人から広く参加者を募ってのフリーマーケットは、デリーの日本人社会ではこれが初の試みと言っていいのではないかと思います。ハウズ・カース・ヴィレッジという土地にふさわしいイベントで、運命的なものも感じます。楽しみにしています。
当日販売する商品の宣伝もしてよいとのことでしたが、とりあえず今回はハウズ・カース・ヴィレッジへの想いを、どちらかというと余分な知識のひけらかしと共に語らせていただきました。おそらく2006年以降にデリーに来た方には、ハウズ・カース・ヴィレッジの過去は目新しい情報に映るだろうと思ったのです。デモリッション&シーリングの前に愛用していたレストランがここにいくつもありました。あの出来事を目の当たりにしてしまうと、今ある人気店の数々もいずれは一瞬の内に消え去ってしまうだろうと、寂寞とした無常感を感じるのですが、おそらくその前にデリーを去ることになると思いますし、今は今を楽しむことにしています。現在の家からもそう遠くないこともあり、ハウズ・カース・ヴィレッジにはよく足を伸ばしています。好きです、ハウズ・カース・ヴィレッジ。
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TeamDFM: アルカカットさん、ありがとうございました。
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